その日からわたしはメンテナンス中、毎日
おにぎりと、どこかでテイクアウトしたおかずを差し入れした。

もちろんわたしはお弁当を作っても全然いいのだけど
彼一人ならまだしも
わたしのことをよくわからないスタッフの子にそれを差し入れるのには
さすがに抵抗があった。

「今日もありがとう。
おにぎりもおかずもおいしかったよ」

彼からLINEが届いたので

「何かリクエストない?」

と返事をすると

「ラムネアイス…溶けたヤツ」

と、頭に花のついた絵文字と共に返信が来た。

先日ホテルに行ったとき
彼はサービスのラムネアイスを
わたしの身体に垂らして
それを丁寧に舐めとったのだった。

「頭に花つけて何言ってるの〜
やらしい〜」

そう送った後

「と言いつつ、コウ君の脇の下めっちゃ気になった
ヘッドロックされたい」

と、わたしが珍しくそんなLINEを送ると
彼は

「ヘッドロック…
変態!」

と送り返してきた。

そう、わたしは彼の脇の匂いが大好きなのだ。
あまり臭いのしない彼が、
セックスの最中汗だくになると
脇から汗の匂いがしてくるのが堪らなく好きで
それでも前は恥ずかしかったので
嗅ぎたいと思いつつもそんな素振りは見せなかったが
彼がわたしに、吐く息もちょうだい、と言ってからは
わたしも素直に伝えるようになった。

彼は恥ずかしそうにしながらも
わたしに嗅がせてくれる。

「みつは全然しないもんなぁ」

彼もわたしの脇を掴んで嗅ぎ、
そうつまらなそうに言うが、
わたしは
全然ってことはないわと思いながらも
ほっとする。

ラムネアイスの差し入れ無理だよな、
と思いながらスーパーを覗くと
クーリッシュのラムネ味が発売されていた。

わたしは思わずそれを買い、
次の日持って行った。

「今からラムネアイス届ける!」

出る前にLINEをしたけど
わたしがジムに着いたときは
彼はジムに居なかった。
スタッフの子に聞くと、作業場にいると言う。
仕方なくスタッフの子に預けて帰ろうとすると
彼から

「作業場にいるからこれから向かうね」

とLINEが来ていることに気がついたので

「あ、オーナー今来るみたい!
ちょっと待たせてもらいます〜」

と、わたしが言うと、スタッフの子は
わかりましたー!と言った後でわたしの持ってきたバッグを覗き込むと

「じゃあ早速いただきまーす」

と言って、
バッグをテーブルと椅子の当たりに持っていった。

  え、オーナー待ってないんだ?
  え、キミついでの方だって分かってる?

わたしは一瞬色々なツッコミが頭の中をよぎったが
まぁ、現代っ子なんだな、かわいいな、と
微笑ましくみていると彼が来た。

「ごめんね、仕事の邪魔して」

と言うといやいや、もうこっちに来るところだったから、と彼は言ったので

「あっちでもう食べるとこよ」

と言うと彼も少し驚いたが

「クーリッシュのラムネ味も買ってきたよ」

と言うと、彼は何か言いたげな
なんとも言えない顔でわたしを見てきたので
人前でやめて、と
心の中で思いながらわたしは帰ってきた。

彼の顔を毎日見られてわたしは嬉しかったし
彼の役に少しでも立てるのなら
幸せだった。

「みっちゃんは本当に尽くしタイプ。
わたしなら無理。
結婚もしてない相手におにぎりとか絶対やらない。
カップヌードル啜って可哀想と思っても、
やらない」

妹にはそう、批判されたけど
わたしは考えた。

妹はそもそも夫にも子供にも
ご飯をあまり作らない。
わたしは彼じゃなくても
これが友人でも
困っていたらおにぎりくらいは差し入れるだろう。
これはもう性格の違いだとしか言いようがない。

以前はそう言う言葉にいちいち動揺したり
傷ついたりしたけど
今のわたしは
わたしはわたし、と思っているので
気にならなくなった。

他人の意見に左右されて
自分が本当にしたことをしない方が
きっと、よっぽど後悔する。

「今日もありがとう。
おにぎりだけでも十分ありがたいよ」

彼からLINEが届く。

おにぎりを握ることは朝飯前なのだが
お節介になってやしないかわたしは少し気になった。

「毎日ごめんね、
好きなものを食べる権利を奪ってるのではないかなって
少し気になってた」

次の日わたしがおにぎりを届けながら言うと

「そんな権利いいから。
本当に助かってるよ。今まで適当に
すき家とかコンビニとかで買ってたからさぁ」

と彼が言った。

「忙しくて…
LINEとかもあんまできなくてごめんね」


わたしが帰ろうとすると
彼が出口まで追いかけてきて、
そう申し訳なさそうに言ってきた。

「しかもさぁ。
今週これ終わったら俺また研修行くから
今週デートできないわ。
あ、でも週末は?ジム来れる?
出番じゃないけど俺行くよ」

彼は週イチのデートが出来ないことを
謝る。

「え、気にしないで全然。
わたしのことは放っといて!
まず、頑張ってね!」

わたしが思わずそう言うと、
彼は力が抜けたように笑った。

負担にはなりたくない。

そして何より、こんな時こそ彼の役に立ちたい。

わたしは自分で自分に
健気だなぁ、とツッコミを入れた。