次の日朝起きてもわたしのモヤモヤは晴れなかったが
わたしの態度で彼の仕事に支障をきたしたら大変、
と思った。

わたしは彼の成功を
それでいて誰よりも信じているし
力になりたいとも思っていて
だけどそれを願いきれない関係であることに
モヤモヤを抱えている。

カレンダーに目をやると
もうすぐ丸3年で
4年目に入るところだった。

「謝らないで。
全然怒ってないぉ。
明日で3年経つぉ」

わたしがそうLINEすると

「あっという間だったけど
濃い3年だったね」

と返事が来て
わたしはそれには返信せずに放置した。

「今週は大丈夫?」

彼に訊かれて

「うん大丈夫」

と短い返事で曜日を伝え

「了解」

と言う彼の返事にも返さずにいると
次の日

「急に寒くなったから
風邪ひかないようにね」

とLINEが来たので
ありがとうと言うスタンプのみを押し、
男友達とランチに行った。
高校時代からの友人であるその人は
会社の経営者で、
わたしは仕事でもお世話になっているのだが
彼と違い、クールなほどに合理的だ。
わたしのモヤモヤなんて一瞬でバッサリ斬られるのだろうが
わたしはだからこそ敢えて彼に会いたかった。


「それ。言わない方がいいと思うよ。言ってどうすんの?」

わたしが彼とのワクチンのことでモヤモヤしていた話を教え、
本当に大事な人には教えるんでしょう、
と言わなかったことでモヤモヤを引きずってしまっているので
別れを覚悟でそのことについて彼に伝えてみようかな、とわたしは考えていた。

「どんな伝え方したら伝わるかな?」

そう訊いたわたしに
案の定彼はバッサリと斬ってきた。

「それ訊いてどうすんの。
そもそも未都が不安ぶつけてスッキリしたいとか、
安心したいだけだろ。
お前はスッキリするかもしれないけど
向こうはモヤモヤが残るだろうし
それが続けば間違いなく
めんどくさい女だなって思われるよ。
みつにとっていいことひとつもないと思うわ。
そもそも教えてもらわないって言ったって
お前と奥さんとじゃ立場が全然違うだろ。」

「ガーン。」

痛いところを突かれて
わたしは頭を殴られたようなショックを受け
そう声に出すと彼は吹き出した。

「そうだけどさぁ…
そう言われると元も子もないって言うか。」

「でも向こうが言わないのだって
別にお前のこと大切じゃないからじゃないよ。
お前の受け取り方が間違ってんだよ。
男は基本的に面倒なことはしないし
気持ちのない奴に手間かけたり時間割いたりしないよ。
忙しいのに毎週欠かさず会いに来るのも
一緒にキャンプ行ったりアウトドア行ったりさ
奥さんがしてもらってないことだって
お前は沢山してもらっててさ。
それは間違いなく相手の気持ちだし、愛情だろう。
大事じゃない奴とキャンプなんて絶対行かないよ。
面倒くさいだけだよ」

友人の言葉に
わたしは少しずつ冷静さを取り戻してきた。

「うん。
まぁ、確かに。
普段はとても感じるんだよ、でも…」

「女と違って男は別にそう言うのいちいち全部
話さないからさ。
話さないのは大事じゃないからじゃないし。
全部共有したいとか言われると
面倒くさくなるな、俺は」

「あんたと違って
コウくんはそんな合理的な男じゃないもん。
もっと優しいから」

わたしは友人に文句を言いつつも
彼に相談したことは正解だったなと思っていた。

妹や女友達だと
わたしが彼に欲しい言葉をそのまま言ってくれるくらい共感はしてもらえるが
それは彼の至らなさを浮き彫りにすることになってしまい、
彼との仲をプラスにすることに対しては
逆効果なようにも思う。

「明日デートなんだろ?
そんな、なんて言ってやろうじゃなくてさ、
彼氏がリフレッシュ出来るようなことを
たくさん考えてやった方がいいよ。
頭上がらなくなるよ、そう言う人に男はさ」

「うん」

「それに仕事で繋がっていきたいって言ってただろ。
まずはそこ目指すべきだよ。
そこ目指すのは正解だと思う。
みつのおかげで仕事でますます成功できたら、
黙ってても手放せなくなるだろ?
まずは実績作らないと。」


「そっかぁ。
そうだね!ありがとう」

わたしはスッキリとした気持ちで
運ばれてきたハンバーグをモリモリと食べ始める。

友人はわたしの愚痴を聞いてくれた上、
当たり前のようにランチ代を出してくれ、
午後は気持ちを切り替えて
わたしは仕事に没頭した。

こういうとき、旧い友達の存在はありがたい。
明日は今日までのモヤモヤはひとまず置いといて
彼とのデートを楽しもう。

わたしはようやく、
素直な気持ちでそう思えた。


「モヤモヤするから、今から会えない?」

彼からそんなLINEが届いたのは
その日の夜23時近く、
今からお風呂に入ろう、というタイミングだった。