彼はわたしの肩を掴むと

「やだよ。
このままこんな感じで帰るの嫌だ」

そう言って
後ろから抱きしめてきた。

わたしはようやく起き上がると
ベッドの上に体育座りをして
そのまま言葉を選ぼうと
気持ちを整理していた。

「なんかね、
勝手に期待してるわたしが悪いんだけど
さっきみたいにお正月とか
休みがあるって聞いたら
それじゃあ1日くらいは会えるのかなって思って
でも会えないって言われたら
期待してたぶん
ショックも大きかったし
なんかすごく惨めな気持ちになっちゃった。
ごめんね、感じ悪くて」

「コウくん忙しい人だし
仕事に本当にストイックなのもみてるし
困らせたくないって本気で思ってるんだけど
でも
先のことがあまりにも分からなくて
それが、結構しんどい。」

「わがまま言ってごめん。
会いたかったなって
思っただけだよ、ごめんね」

わたしはそこまで一気に話すと
フーッと
肩の力が抜けた。

彼は黙ってわたしの顔を見ていたけど

「そっか…ごめん」

と言った。

「先のこと、伝えなくてごめん。
これからは、もう少し先の予定のことを
教えるようにするわ。
ごめんね」

彼はそう言うと、

「言い訳になっちゃうかも知んないけどさ…」

と、静かに話し始めた。

「俺、
もう、そう言う思考になっちゃってると言うか、
ほら。俺の仕事ってケツ決まってるしさ。
納期遅らせらんないから、
常にあんまり仕事以外の予定を立ててなくて
前にも言ったかも知んないけど
セロテープを引く時間すら惜しくて
自動のテープカッター買っちゃうくらい
仕事優先させちゃってきてたけど。
でも、そうだよね。
それは俺の事情だからね。
ごめんね」

「これからは、
もう少し早くに
先のことを話すようにする」

と、彼は自分にも言い聞かせるように言った。

「いや、ごめんコウくん、
わたしコウくんの仕事の邪魔はしたくないの本当に。
矛盾するみたいだけど本当に
コウくんの仕事に対する姿勢は尊敬してるし
負担になりたくない」

思わずわたしがそう言うと

「いや、ゼロとは言わんけどさ。
でも、俺だって、
満たされるものがあるわけだし。」

彼はそう言ったので

「本当?
負担だけじゃない?」

わたしが訊くと

「当たり前だろ。
負担ならこうやって
毎週毎週時間作って会いに来ないよ」

と彼は言ったので、
わたしは思わず

「そうだよね。
なんか、だんだん飽きて会わなくなるのかなあ
って思ってたけど」

と言うと

「ね。俺もそう思ったけどさぁ。
全然飽きないよね。」と
彼も言って思わず笑った。