「え、じゃあ
奥さんにとってコウくんって必要なの?
ここまでなんの関わりもなくて、
本当はコウくんがいるせいで、家事負担が増えるし嫌だと思ってるかもしれなくない?
長い間一人で気ままに生きてきた人ならさぁ。
愛もないこの状態でいる方が可哀想じゃない?
コウくんが手を離してあげたら
もしかしたらもっと一緒にいられる人と出会えるかもしれないのに。
奥さんが可哀想なんて偽善ぽいこと言うなら、
わたしとこんなことしてる場合じゃないのよ。
一刻も早く奥さんの元に行くべきだし
それができないのなら、
1日でも早く別れた方が奥さんのためだよ。
わたし自身離婚した経験があるから断言できるけど、
気持ちのない人と一緒にいることほど
しんどいことはないよ?」

わたしの言葉に
彼は真剣な顔をして聞いていた。

「俺は結婚に向いてないのかなって思う。
365日好きな人と一緒にいなくてもいいし」

「それはわたしと結婚できない理由じゃない、
コウくんそれならなぜあなたは結婚したの?
コウくんが独身で
そんなコウくんにわたしが結婚を迫ってるなら
今の言い分も分かるけど
なんの説得力もないよ?」

わたしは冷静に突っ込んだ。
頭の中は驚くほど冷静だった。

「向こうにとっては俺じゃなくてもいいと思う。
でも、社会的に、結婚してるって状態にしてあげてるだけでもいいのかなと思って…」

「何それ。
それをわたしに言うのは残酷だわ。
そんなことのために?
わたしはコウくんじゃなきゃダメだと言ってる。
そんな、奥さんの社会的立場を守るために
わたしとコウくんが、
お互いがお互いじゃなきゃダメだと言いながら
一生このままの関係で我慢?
あー無理無理」

わたしは少し馬鹿らしくなって投げやりにそう言うと、
ソファの背もたれに背中を預けた。

「奥さんの方が大事だから離婚できないって
言えばいいのに。
その方がよっぽど潔いわ。
ねえそうだコウくん、
セックス レスだからって言ってたよね、前に。
じゃあさ、それが理由なら、
コウくんがそのことを理由に別れを切り出したとして、
別れないためにセックスレスを解消します、
努力しますって言ってくれたらさ、
わたし要らなくなるよね?
それがベストなんじゃない?」

わたしは思いついたことを言った。

「いやいやいやいや、
そんな、人との距離感ってそう言う簡単なものじゃないでしょ。
昔一度、俺の祖父さんに挨拶したことあって、
そのときに俺が前に教えた
祖父さんがやってた会社のこととかさ、
市から表彰されたって話したこととか全く覚えてなくて、
なんの仕事してるんですかとか聞いてて、
俺に興味ないんだなって思って、
それから少し距離を変えた。
俺も向こうの家に寄り付かないし。

そう言うカラダのことだってさ、
本気で嫌がって拒絶したのに
別れたくないからってまた近づいて来たりされたら
俺の心がもたないわ。
でも未都この前そう言う話じゃなくなかった?
離婚じゃなくても一緒に暮らす、みたいな」

「もちろんすぐは無理なのわかってるけど。
でもゆくゆくは一緒になりたいよ。
今はコウくんが倒れても、
わたしは会いにすら行けないんだよ?」

「え?そうなの?そんなことないでしょ」

「そんなことあるよ!
じゃあコウくんわたしを養子にでもする?
離婚できないと言うならそれしかないよ」

わたしが冗談混じりにそう言うと、

「養子かぁ…」

彼が新たな発見、みたいな顔をしたので

「ちょっと!
何いい案だなって顔してんの!
冗談じゃないよ!
一度親子関係になったら、
解消した後も婚姻関係を結べなくなるんだからね!」

わたしが勢いよく突っ込んだので
重苦しかった空気が一気に緩んで
わたし達は思わず笑い合った。